2025年、新年あけましておめでとうございます。今年の干支は満を持しての登場、ヘビです。ヘビ・・・地味で気持ち悪くて忌み嫌われることの多い生き物代表、しかし、生態や行動を知れば知るほどおもしろい生き物、それがヘビです。当園の「はちゅウるい館」にも、10種ほどのヘビがいますが、建物に入るや否やちょっとでも長いものを見たとたん、「キャ、やだー」と言ってあとずさり、もしくは入口へ折り返し、出て行っちゃうお客さんを時々見かけます。それでも中には、興味津々に覗き込むお子さんがいると、ヘビ嫌いの保護者の方は、そんなわが子やお孫さんを変人でも見るような目で遠巻きに見てたりします。では何故そんなにダーティーなイメージで気持ち悪がられるのか、ひとつひとつ見ていけばそこには巧妙な進化のシナリオが隠されていたのです(あ、「ダーウィンが来た」っぽい)。
ヘビが嫌がられるイメージで一番多いのは、足がなくて長いことではないでしょうか(本来は肢と書くべきですが、あえて)。足がないためいくつもに重なった腹板を前にずらしながら左右にくねって進むさまが、他の動物の移動方法と決定的に違うところです。他の動物とのこの違いが「気持ち悪い」、というイメージを人間に植え付けたのだと思います。腹板だけで進むため、ひとつひとつのパーツは少ないより多いほうが進みやすく、体も長くなっていったのでしょう。また、ヘビは同じ爬虫類のトカゲなどから進化したと言われますが、彼らは地中に潜るためあえて足をなくし体を細長くしました。地中や岩のすき間にはネズミなどのげっ歯類や昆虫、ミミズ、モグラなどエサとなる獲物がたくさんいます。また、哺乳類や猛禽類などの捕食者から逃れることもできます。変温動物のヘビにとって、温度変化の少ない地中は逆に天国のような環境だったかもしれません。地中を進むに足は邪魔です。また、地上で音もなく獲物に忍び寄りパクっとやるにも足はないほうが好都合です。こうして退化した足ですが(身体的退化も進化の形態です)、一部のヘビにはその痕跡がわずかにあります。当園のビルマニシキヘビのお腹の後方には小っちゃな爪のような突起が確認できます。
次のキモさは、ヌルヌルしてるです。しかし、時々「はちゅウるい館」でやってる「とっておきタイム」に出てくるボールニシキヘビを触ってみて下さい。まったく逆でサラサラしています。どうしてもウナギのイメージがあるからだと思いますが、ウナギの体表面に鱗はなく、両生類同様、皮膚呼吸をする理由から体を保水力に富んだ粘液で覆っています。しかし、爬虫類の中でもヘビやトカゲは有鱗目というグループに分類され、固い鱗で覆われているのです。先ほど進化の話をしましたが、爬虫類もその祖先は両生類から派生したと考えられています。水辺周辺で生活していた両生類は乾燥に気を配ることはありません。しかし、水辺を離れ陸上だけに進出した生き物にとって最大の敵は乾燥です。この乾燥から身を守るため鱗という鎧を身にまといました。この鱗は、私たちの爪と同じケラチンというたんぱく質でできています。だからサラサーラのスベスーベです。また、ご存知の方もいると思いますが、鱗表皮の古い角質層を交換するためヘビは脱皮を繰り返します。私たちもお風呂でアカを落としますが、このアカと同じようにヘビは全身丸ごと交換します。
次に嫌がられるのがチロチロ出す舌。この舌、実は鼻なんです。いや、別に鼻は鼻でちゃんとありますが、それとは別に、周囲の臭いの分子を二股に分かれた舌の先にからめとり、口の中にあるヤコブソン器官という臭い感知器へこの舌先をつけて嗅覚情報を入手しているのです。もともと鼻の奥にあったこの器官、鼻の穴数にあわせこの器官も二つあることから舌先も二股に分かれたのです。ヤコブソン器官は人間にはありませんが、嗅覚の鋭い犬や一部の両生類にもあります。
この他にも、生きた動物を捕えるために(基本的に生きたものしか食べない)必要な熱を感知するピット器官の装備や、弱い視力ながらも一瞬たりとも捕食機会を逃さない瞼のない開きっぱなしの眼(実は眼球保護や乾燥防止から透明な鱗に覆われている)など、狙われた獲物には堪ったもんじゃない秘密兵器の数々を引っ提げながら進化してきたわけです。微動だにしないヘビを見て「動かないじゃない」と言わないで下さい、それ目ん玉おっぴろげて眠ってるだけですから。
また、「毒はないの?」とよく聞かれますが、当園で飼育しているヘビたちに毒はありません。ヘビ全体でも毒をもつものはほんの一部です。ただし、毒はなくても体長4mにもなるビルマニシキヘビなどは強烈な絞め技を持っており、鳥や小型哺乳類、時にはシカなども巻きつけて締め殺すことができます。サラリーマンの格言「長いものには巻かれろ」はニシキヘビの前では撤回して下さい。
また、ヘビに耳はありません。前述の熱感知や嗅覚、振動などで聴力を補って余りあるのです。「あいつは聞く耳をもたない」と言ったらそのあいつとはヘビだと思って間違いないでしょう。
このように、「嫌うなら嫌ってくれ、ヘビはヘビのやり方でいくぜ」的進化を遂げてきた彼らからすれば、これ以上合理的な体のつくりは考えられなかったのでしょう。もしかすると、嫌われる体をつくることで人間や他の動物が忌避するような巧妙な戦略だったのかもしれません。
私の母の実家は田舎の農家で、子どもの頃泊まりにいって遊んでいると押入れから突然アオダイショウが現れ、子どもたちでキャアキャアやって騒いでたのを思い出します。しかし伯父さんは、家の主だから退治しないんだ、と言ってました。あとで聞くと天井裏のネズミなど治してくれたり他のヘビが来ないから、ということでしたが実際はニワトリを放し飼いにしていたので、卵やヒヨコが餌食になっていたようです。なんとものどかな光景ですが、今は滅多に日常の中でヘビがでてくることは無くなりました。
そんなヘビさんも時には重宝されます。「ヘビが夢にでてくると縁起がいい」とか「ヘビの脱け殻は金運上昇」などとも言われます。そこで当園でも、ヘビ年にちなみ特別に「開運!ヘビの抜け殻」を販売しています。結果に責任は持てませんが、進化の達人(ヒトではないが・・・汗)をお守り代わりにいかがでしょうか。
「はちゅウるい館」ではニシキヘビ類のほかエメラルドツリーボアやボアコンストリクターといったボア類など海外のヘビから身近な日本のヘビまで、また、トカゲやカメなどもたくさん展示しています。どうか2025年が皆様にとって良い年となり、またヘビの悪いイメージが払しょくできますよう願っています。
※ヘビはトカゲから進化して足がない、と書きましたが例外もあり、まんまな名前をいただいたアシナシトカゲのように足がないトカゲもいます。(じゃ、ヘビだろ、って突っ込まないでください。瞼や耳があるしトカゲの得意技しっぽ切りもできるんです)
※参考文献 「世界動物大図鑑」(デヴィッド・バーニー・編)
「両生類・爬虫類のふしぎ」(星野一三雄・著)0
本ブログは、2013年日立市役所庁内機関誌に掲載したものを加筆修正したものです。
(園長 生江信孝)