日立市かみね動物園公式ブログ

太平洋の見える動物園!

佐藤さんを偲んで

 5月22日、陽光まばゆく爽やかな風そよぐ新緑の那須高原において、那須どうぶつ王国の園長を務められ、3月に物故した佐藤哲也さんのお別れ会が、王国にて執り行われました。

祭壇

  佐藤さんは、群馬サファリパークに飼育員として入社後、姫路セントラルパークを経て動物飼育管理を専門とするアニマルエスコートサービスを設立、その後那須どうぶつ王国神戸どうぶつ王国を立ち上げた生粋の動物園人(業界用語かな?)です。動物飼育の実経験のみならず豊富な知識や貪欲な向上心から日本動物園水族館協会(以下、日動水)の生物多様性委員長も務め、国内のみならず海外の動物事情も視野に入れながら日本の動物園全体のレベルアップに日夜奔走していました。もちろん自園の環境整備にも余念がなく、私も那須や神戸の王国に行くと、そのたびに新しい施設や環境が構築されていたのを驚きをもって眺めていました。また動物本位の環境構築と造形美のセンスの良さは、他の誰にもまねのできないものだと秘かに思っていました。それは佐藤さんの小さいころからの動物への愛情に裏打ちされたものです。王国内で行われるバードパフォーマンスやハズバンダリートレーニングなども、科学的な動物行動の原理原則に基づいて行われており、王国内でその佐藤イズムは継承されています。

佐藤さんと

 また、佐藤さんは自園だけではなく、他の園館にも様々なアドバイスを授けていました。かみね動物園も2007年からリニューアルを続けていますが、その裏ではどれだけ佐藤さんに助けてもらったことか。私が赴任して間もない2008年、日動水の総会で初めて顔を合わせましたが、その頃当園でゾウ舎のリニューアルに合わせアメリカバイソン3頭を移動させなくてはならなかったのですが、右も左も分からない動物ド素人の新米園長の私が困っている、といった話をすると快く相談に乗ってくれ、移動先や移動の手はずなどを潤沢な人脈を使い、あっという間に決めたくれたのでした。このほかにも、カピバラコツメカワウソなどの動物搬入などでも大いに助けてもらいました。

 また、国内で絶滅が危惧される野生動物の保全活動にも熱心で、前述の生物多様性委員長の立場を超え、ツシマヤマネコやニホンライチョウの生息域外保全や野生復帰プログラムなどを手掛け、那須で飼育したライチョウを自らヘリコプターに搭乗し、中央アルプスへ放鳥した活動はメディアでも取り上げられました。当園でも始まった環境省との連携事業であるミヤコカナヘビ飼育は、佐藤さんの調整で始まったものです。昨年2月には当園での「かみねおもしろZOOサロン」でそうした希少種の野生復帰に関連した講演をして頂きました。

ZOOサロンでの講演

ZOOサロン後の職員との交流会

 また、仕事上だけでなくプライベートでもたくさんの良い思い出を作って頂きました。佐藤さんも私同様、お酒が大好きで酔うほどに動物談議に花が咲き至福の時間を共有しました。またゴルフも近隣の園館長さん達とよくコースを回りましたが、そんな時は必ず双眼鏡を持っていき、野山に飛来する野鳥をプレーのかたわら観察していました。本当に動物をこよなく愛する人だったのです。

 佐藤さんにはやるべきことはまだまだたくさんあり、よく今後の事業展開を楽しそうに語ってくれていました。

 そんな佐藤さん、昨年の4月に川崎市で園館長会議がありそこでご一緒したのが、生前お会いした最後の機会となってしまいました。それ以降、体調を崩され入退院を繰り返していたのですが、その間も電話ではよく話をし、復帰へ向けての意気込みを語ったり、当園の今後の再整備事業についても協力いただける話をしていたのですが、今年1月に電話で話したのが最後となり、3月6日ついに帰らぬ人となってしまいました。王国の支配人さんから悲報を聞いたときは、復帰を信じていただけに言葉が出ませんでした。

 お別れ会には、佐藤さんの人柄を偲び200人以上の方が別れを惜しんでやってきました。動物が好きで、人が好きで、豪放磊落な人柄は多くの人を惹きつけたのでしょう。私もその一人でした。1歳年下ですが、動物の道の大先輩であった佐藤さんからは実に多くのことを教えて頂きました。お別れ会では、佐藤さんが指導したインストラクターによるバードパフォーマンスが披露されましたが、鳥たちの飛ぶ大空のかなたに、ちらりと佐藤さんの顔が浮かぶのを見たのは私だけだったのでしょうか。

大空のかなたに

 佐藤哲也さん、知り合って16年のおつきあいでしたが色々とありがとうございました。空のかなたでお酒でも飲みながら好きな動物たちとゆっくり遊んでください。

合掌。

(園長 生江信孝)